被疑者の不起訴を求める意見書(萩尾健太弁護士)

萩尾健太弁護士により、黒い彗星を「「嫌疑なし」として不起訴とすることを求める」意見書が検察庁公安部の検察官に提出されました。

被疑者の不起訴を求める意見書


2010年12月14日
東京地方検察庁公安部
検察官 殿
被疑者  [氏名略・黒い彗星]


 上記の者に対する暴行被疑事件について、下記の通り意見を述べる。


弁護人   萩 尾  健 太
[住所略]


意 見 の 趣 旨


検察官は被疑者について「嫌疑なし」として不起訴とすることを求める


意 見 の 理 由


1 被疑者は無実であり嫌疑はない
報道によれば、被疑者は、本年12月4日午後3時25分ごろ、東京都渋谷区神南の路上で、デモに参加していた60代の男性に飛びかかり、暴行を加えたとの被疑事実で現行犯逮捕されたと当職は聞いている。
 しかし、被疑者は実際にはかかる行為はなしていない。
 このデモは、右翼団体「排害社」が主催し、同様の右翼団体「主権回復をめざす会」や「在日特権を許さない市民の会」のメンバーらも参加したものである。昨年12月4日に、京都朝鮮第一初級学校を襲撃し、児童たちに対して拡声器で聞くに堪えない差別・拝外主義的な罵詈雑言を浴びせ、暴行、破壊行為を繰り返すなどし、襲撃実行犯の一部は逮捕、起訴された。ところが、排害社はこれを「義挙」とし、犯罪者を「勇者」と崇めている。今回のデモは、その1周年を記念したデモである。それに対して、心ある市民が怒りと抗議の声を上げるのは当然である。
 当職が任意提出した現場の映像によれば、被疑者は、在日韓国人として、このデモに対して抗議の意思を伝えるべく、ゆっくりと歩いてデモの先導車とデモ隊の間に入り、民族教育の尊重を訴えるバナーを広げた。すると、排害社の協力団体である「主権回復をめざす会」の西村修平が、被疑者に対して突進し、横に回り込んで被疑者を羽交い締めにした。
 被疑者がそれに対して思わず身をかわしたところ、西村は転がった。よって、被疑者は何ら暴行をしていない。
しかし、それを合図に、排害社や「主権回復をめざす会」のメンバーが、被疑者に襲いかかり、持っていた肩掛けトランスメガフォンで被疑者を殴る、頭髪や襟首をつかむ、蹴る、日の丸の旗竿で突く、などの暴行を加えた。
その結果、被疑者は肩掛けトランスメガフォンで殴られた右額を切って出血し、左眉毛の上や、左目の下、唇の横などにも擦り傷や切り傷を負い、左膝にも擦り傷を負って出血した。
 このように、真実は、被疑者は傷害の被害者であり、本来、捜査の対象となるべきは、排害社や「主権回復をめざす会」のメンバーなのである。
よって、被疑者には暴行罪はおよそ成立しない。


2 結語 
 前述のように被疑者には犯罪の嫌疑が皆無である。そして、本件の経緯からすれば、警察官らは、被疑者の「逮捕」を求める右翼らの声に気圧されて、被疑者を渋谷警察署に連行した後に逮捕したのであって、被疑者にはなんら犯罪の嫌疑は認められないことは明らかである。
 被疑者は、起訴は勿論のこと、仮に起訴猶予とされても、犯罪者扱いされる屈辱を受けることとなる。そのようなことになれば、被疑者らの名誉が傷付けられ、職業上も不利益に評価されかねない。
 被疑者らの受けた「犯罪者」というレッテルを雪ぎ、名誉を回復するためにも、「嫌疑なし」と明記した不起訴処分とし、被疑者を起訴および起訴猶予の不利益から解放されるべきである。
 それこそが、公益の代表者たる検察官の責務であると信じる。

以上


この意見書が提出されたのは12月14日(火)。いまだ、東京地方検察庁公安部は結論を出しておらず、黒い彗星への不当な種々の社会的制裁が継続しています。